宝塚歌劇団と無期転換ルール

はじめに

2023年、宝塚歌劇団の宙組に所属する25歳の女性劇団員が自ら命を絶つという痛ましい出来事がありました。この問題を受けて管轄の西宮労働基準監督署は、劇団員の労働環境や契約形態について調査を行い、劇団員は実質的に労働者に当たると判断しました。
この認定を受け、宝塚歌劇団は労働環境の改善に向けた取り組みを発表しています。
本記事では、この一連の動きに加え、有期雇用契約と無期転換ルールについて詳しく解説します。


この記事で学べること

労働基準監督署の調査と是正勧告

西宮労働基準監督署が宝塚歌劇団の労働環境や契約形態に関する調査し、2024年9月に運営の阪急電鉄株式会社に対し行った是正勧告の概要です。

実質的な労働者性の認定

在籍6年目以降の劇団員は契約上「業務委託」とされていましたが、劇団の指示に従って稽古・公演に従事し、勤務時間や仕事内容の拘束があったことから、実質的には「雇用契約」であると判断されました。

労働時間の管理不足

自主稽古を含む長時間の勤務実態がありながら、労働時間としての管理がされていなかった点が指摘されました。

この調査結果を受けて、先月阪急阪神ホールディングスは組織改革および労働環境の改善策を発表しています。


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宝塚歌劇団の組織改革と労働環境の見直し

宝塚歌劇団は、以下の改善策を発表しました。

組織の法人化

現在、阪急電鉄の一事業として運営されている宝塚歌劇団を、2025年4月から株式会社として独立させます。これにより、取締役の過半数を社外出身者とすることで、組織の透明性とガバナンスの強化を図るとしています。

雇用契約の見直し

従来、入団6年目以降の劇団員は業務委託契約に切り替えられていましたが、2025年3月からは雇用契約に戻し、労働時間の適切な管理を行う方針です。また、自主稽古も一定の管理のもとで労働時間として認定されるようになります。


有期雇用契約と無期転換ルールの適用

宝塚歌劇団の劇団員は、入団から5年目までは有期雇用契約を結び、その後、業務委託契約に移行する形態を取っていました。しかし、労働基準監督署の認定により、劇団員は「実質的な労働者」として扱われることが明確になりました。これにより、労働契約法に基づく無期転換ルールの適用されることはご存じでしょうか。

無期転換ルールとは

無期転換ルールとは、同一の使用者との間で有期労働契約が更新されて通算5年を超えた場合、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換される制度です。

適用対象

同一の事業主との間で、有期契約が通算5年を超えた場合

申込権の発生

通算5年を超えた時点で、労働者が無期転換を希望する場合申込みが可能。申し込みがあった場合、企業側は拒否することはできない。

無期転換後の労働条件

基本的には、直前の有期契約と同じ条件が適用されますが、労使間の協議により変更することも可能

予め更新上限を設けることもできますが、無期転換ルールの適用を免れる意図をもって、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましくありません。
また、有期契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても、雇止めをすることは許されない場合もあります。

宝塚歌劇団では、入団から5年目までは有期雇用契約が更新されていました。
そのため、劇団員が通算5年を超えて勤務する場合、無期転換ルールが適用され、無期雇用契約に転換する権利が発生します。
例外はありますが、タカラジェンヌの職種には適用出来るとは思えません。
5年目までの契約が、どのような雇用期間(1~3年)で設定されてきたのか又今後はどうするのか、はっきりとした情報は発表されませんでしたが、研5で多くが雇止めとなることは考えにくく、研6以降は一般的なこのルールを遵守しなければなりません。
スターとなられた方すべてが、早くから光り輝いていたわけでは無いことを始めとして、宝塚歌劇団ファンであれば「どうするんだろう」ということを、いくつも思い浮かぶのではないでしょうか。


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無期転換ルールの影響と課題

無期転換ルールの適用により、劇団員の雇用の安定性は高まり、長期的なキャリア形成が可能となります。
しかし、一方で以下の課題も考えられます。

定年の問題

無期転換後の退職は定年もしくは自己都合退職が一般的です。また60歳未満の定年を定める事は認められていません。
無期雇用転換後は労働者となった劇団員が自己の都合で退職を選ばない限り、通常解約は難しくなります。

劇団員の賃金制度

長期雇用に伴い、劇団員のキャリア支援や舞台の品質保持に必要な研修体制を、法令遵守した時間内に納める整備が求められます。

雇用の柔軟性確保

舞台上の人数を確保しながら労働者となった団員のモチベーションもスキルも管理する必要があります。
競争が必要な世界でその競争が健全に行われるよう他の企業よりさらに日常的なケアも必要です。

直接雇用になった事で、組ごとのリーダーの負担が大きくなることも懸念されます。
必要な人事異動として、組の移動だけでなくデスクワークへの異動打診なども増えてくるかもしれません。


最後に

宝塚歌劇団は、劇団員の労働環境の改善と組織の透明性向上を目指し、改革を進めているようです。
無期転換ルールの適用により、劇団員の雇用の安定性や健康面での安全性が高まることが期待されます。
私も数年前から忙しくなり、観劇する機会は以前より少なくなってしまいましたが、毎公演の観劇を楽しみにしているほどのファンでした。
大空祐飛さんがトップだったころ、姉に誘われて観劇したのが最初です。
お茶会や地方公演にも参加しましたし、新しい公演の発表、組替えや退団に喜んだりため息をついたりしておりました。
宝塚の舞台を生観劇しておりますと、他の舞台では感じることが出来ない魅力に気づきます。
出演者は自身の鍛錬の成果を精一杯発揮しながら、一秒たりとも全体の調和を決して崩しません。
これは、どんな作品でも変わりませんでした。
お決まりの大羽を背負ったトップスターが大階段を下りてきて、観客も組子も全員がトップスターを見つめる瞬間は、観客である私まで安堵感がを覚えるほどです。
何か、自分もまだまだ頑張れるという気持ちにさせてもらえましたが、それだけギリギリまで努力している劇団員の気迫を感じとっていたのかもしれません。

一連の出来事を経て、改善へとスタートした宝塚歌劇団ですが、この改善が舞台に影響が出るのか・・・
時間がかかっても、良い結果につながることを心から願っています。

何にも言えることですが、実際に観た人にしかわからない素晴らしさはあります。
そして利益を出し続けながら、良い労働環境を維持するのは本当に難しいことです。
長い歴史の中で、ファンが全力で応援してしまう仕組みを作り上げられた宝塚歌劇団、怒られるかもしれませんが凄いことだと常々思っていました。
ただ、あの素晴らしい舞台を作り上げる劇団員やスタッフが、必要以上に心身をすり減らしていることを喜ぶファンはいません。
宝塚歌劇団に起こったことは、決して他人事ではなく、企業は規模の大小にかかわらず成長をし続けなければならない中でも、一人一人の従業員に心を配ることを怠ってはいけないのです。

普段は、このような感想を交えた記事を上げるブログではありません。
この記事は誰の目にも止まらないかもしれないと思いながら、是正勧告に対する改善策の発表を知り、地方に暮らすひとりのファンとして又、社会保険労務士として私も他人事と思わず、決して忘れず、次世代に資する仕事をしていくことを自分に誓いたいと思い、今回は書きました。

最後までお読みくださった方、ありがとうございました。

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